(……あ!)

はじめて来た病院の窓口の前で、私は思わず声を上げそうになりました。

鞄の中をどんなに探しても、紹介状が見当たらないのです。
その紹介状は、今までお世話になった心療内科が閉院する日に、先生からいただいた大事なもの。そして、その紹介状を、今来ているこの病院に手渡して、発達障害の診断を受けようとしているところなのに……

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小さいころから、忘れ物ばかりしていた。



ガサガサ、ガサガサ。
どんなに鞄の中をひっかき回しても、紹介状が見つかりません。
あわてふためいている私を、病院の受付の人が不思議そうに見ています。

思えば、私は小さいころから、肝心なときに忘れ物ばかりしていました。
紹介状もおそらく、家に置いてきてしまったのでしょう。

今来ている病院は、紹介状持参が必須。
それがなければ、診断してもらえないのに。


「あの……すみません。
紹介状を家に忘れてしまったのですけど、どうしたらいいでしょう」

私は真っ青になって、受付の人に聞いてみました。
そしたら、受付の人は、こう答えました。

「ああ、紹介状ですね。次回来るときに持ってくれば、大丈夫ですよ」

助かった!
これで診断してもらえる!


受付の人から、問診票や性格テストを受け取って、ドサッと待合室のソファーに座り込んでしまいました。



問診票、自閉症スペクトラム指数、そして…



発達障害の診断を受ける前から、自分がいかに注意力に欠けているか思い知らされたような気がして、先行きが心配になりました。

受付の人が言うに、発達障害者支援センターから私に関する資料を事前に送ってもらっているため、紹介状がなくても診察はできるとのことでした。支援員のAさんが、私との数時間にわたる面談内容を、資料にまとめてくれたのでしょう。

Aさん、ありがとう。心のなかで、感謝しました。


心療内科の先生に最後に会ったときは、北風の吹きすさぶ寒い日だったのに、すっかり暖かくなり、大きめの窓から春の日差しがこぼれていました。

私は窓に背を向けて座り、クリップボードに書類一式をはさんで次々と記入しました。


まずは、問診票。

それから、質問に対して4択で答えていくテスト。
(おそらく、自閉症スペクトラム指数を図るためのテストだったと思います)

そして、最後は、今まで見たことないような心理テストが用意されていました。


・父は(   )
・母は(   )
・自殺は(   )


という風に、文の一部が( )でくくられていました。
そして、そのカッコ内に、自由に連想した言葉を書いて、穴埋めしなさいというのです。

(帰宅後にネットで調べたところ、文章完成法というそうです)


「父は……、母は……、自殺は……」


心のなかでキーワードを反芻しているうちに、だんだんと鉛筆の動きが鈍くなっているのが感じられました。


(次に続く)

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